日本の文化力、科学技術力 - 個人主義と集団主義を超えて 

日本の文化力、科学技術力を、世界最高にするにはどうすればよいでしょうか。科学技術の発展は、異端、異能、異才である「個」により支えられています。個は、集団主義により排除・弾圧されるべきものではなく、集団により支援されるものです。本稿では、個人主義と集団主義の対立を止揚した新しい概念である「集団異端主義」を挙げ、異端、異能、異才を欧米よりも強力に保護し、日本の文化力と科学技術力を、世界最高のものにすることを検討します。

I.個人主義と集団主義

1.日本社会の個人主義と集団主義

 日本の科学技術水準を、アメリカ以上に引き上げるにはどうすればよいでしょうか。「個」をもっと強く保護するというのは1つの方法です。個人主義を進めることは、科学技術の発展の観点からは好ましいことでしょう。

 しかし、日本をアメリカ以上の個人主義社会にするのは困難でしょう。アメリカ型の個人主義社会には、マイナス面も大きいため、多くの日本人が受け入れないからです。よって、アメリカ型の個人主義の推進という方向で、日本の科学技術レベルをアメリカ以上にするこのは難しいでしょう。

 資源のない日本は、世界最高の科学技術立国を実現しなければなりません。

 そこで、日本の集団主義を逆に生かしつつ、アメリカ以上に異端(異端児、異端者)、異能、異才が強く保護される方法を考える必要があります。

2.集団異端主義

 そのためには、個人主義と集団主義の対立を止揚する、「集団異端主義」という新しいコンセプトが重要となるでしょう。

 集団異端主義とは、集団の力で異端を強力に保護する主義です。あるいは、異端自体が集団を形成して異端を保護していくという主義です。すなわち、異端、異能、異才を、集団の力で徹底的に保護していくという考え方です。

 現在、科学技術における異能、異才、異端の芽の多くが、日本の厳しい社会環境により立ち枯れてしまいます。周囲が出る杭を打つからです。このような個と集団の対立構造を崩すことが重要です。

 異能、異才、異端の多くは、変わり者、変人、奇人、偏屈者、頑固者、マニア、偏執狂、病的性格等です。偉人の伝記等では、後世の人が、人格的にも立派な人であったように取り繕う ことがあります。しかし、伝記を真に受けてしまうと、事の本質を誤解する危険があります。

 これらの変人、奇人、変わり者等は、集団主義の下では和を乱す者であるという考えがありますが、それは古い考えなのです。

 そのような単純な個人主義と集団主義の対立という二元論を止揚することが重要です。集団異端主義の概念を普及させ、これらの者を強力に保護する新しい社会を作らなければなりません。
 
 集団異端主義により、世界のどの国も追いつくことができない、日本の文化力と科学技術力とを生み出す必要があるのです。

3.集団異端主義の萌芽

 集団異端主義の萌芽は、かなり不完全な形ながら、文化の領域において見られます。それは、日本の文化力の急激な増大です。

 サブカルチャーを含む日本の文化力の増大には、多くの変人、奇人、変わり者、偏屈者、頑固者、マニア、偏執狂、オタク、天才、病的性格者等が多大の貢献をしました。これらの異端者は増大しつづけ、いつのまにか集団を形成していったのです。

 そして、これらの異端者は、小さなコミュニティを作り、ネットで交流し、いつのまにか新しい日本文化を創っていきました。これらの者のこだわりと嗜好と出費により、諸外国にない新産業が日本で発展したのです。

 日本は集団主義なので、変人、奇人、変わり者、偏屈者、頑固者、マニア、偏執狂、病的性格者等は、集団により弾圧するのが日本のためなのだ、という古い見方では、到底説明できない事象が起こってきているのです。

 そして、日本の文化力の増大は、ファッション、アニメーション、コミック、ゲーム、食品関係など、外国への輸出を通じて外貨になることが判明しました。天然資源に乏しい日本社会は、日本の国際競争力の強化、産業の振興になる動きを歓迎します。そして、いつしか日本全体で、これらの新しい日本の文化力を、知的財産政策、産業力強化政策として支援しようという動きが出てきたのです。

 重要なのは、異端者が集団となり、新しい文化を作るという流れは、アメリカもフランスも追いつけない、日本の独創だということです。これらは、世界各国に輸出され、フランス人を魅了し、アメリカ人ですら、日本のかっこよい(cool)動向として、その後を追いかけている状況なのです。

 しかし、新しい文化を創出しているクリエイティブな個人に十分な待遇が与えられているとは必ずしもいえません。これらの動きを後押しするため、新しい文化を創出する独創的、創造的な個人を集団の力で保護していくことが重要です。国家予算の投入はその1つの方策でしょう。

 韓国は映画やドラマに国家予算を投入し、その品質を向上させています。日本の映画、ドラマ等にも国家予算の投入が必要でしょう。資源のない弱い国が生き残るためには、強い国がやらないことをやる必要があるのです。

4.科学技術における集団異端主義

 このような動きは、科学技術の世界では顕著ではありません。しかし、日本の科学技術力の強化にも応用できるはずです。

 科学技術においても、異端者は、小さなコミュニティを作り、ネットで交流し、新しい流れを作り上げていかなければならないでしょう。

 また、科学技術にマニアックに関与する多くの凝り性な人、マニア等の異端者がいることは重要です。どんなに高くても性能や品質に異常にこだわるマニア、技術的性能に金に糸目をつけない凝り性な人間などが多ければ、企業が高付加価値な技術を開発する資金を捻出できるのです。

 しかし、文化の場合と大きく異なる面があります。科学技術は専門分化が激しいことと、一般の人が分かりにくいためにお金になりにくいことです。そのため、政府の役割がより重要になります。

 日本の科学技術立国のためには、日本の科学技術予算を現在よりも増額し、総額でアメリカを超えることが重要です。しかし、単に科学技術予算を増やしても、それが日本の科学技術水準を世界最高にするわけではありません。

 科学関係の予算の効率性が重要です。公共事業と同じく、効率性が低下してはいけないのです。

 科学技術の発展の力の多くは「個」によっています。予算をかけるのであれば、個人の待遇に多額の国家予算を割くことが重要です。優秀な科学者、技術者を毎年1万人選び、1人1億円を与えても、1兆円にしかなりません(優秀な科学技術者の年収1億円1万人計画)。日本の科学技術予算(5年間で約25兆円)を増額すれば、十分に可能な額です。

 これは、優秀な人材を科学者、技術者に向かわせ、理系離れ、理工系離れを防ぐのに絶大な効果を発揮するでしょう。特に、若い技術者、研究者が受賞しやすくすれば、効果が大きいでしょう。理工学部の凋落を防ぐことにもなります。恐らく、ポスドク1万人計画よりも、日本の科学技術力を強化するでしょう。

 1万人の効率的な選定を行なうためには、民間の評価(学術論文と特許等)の活用が重要でしょう。民間で高く評価された人を上から1万人選んで、国家予算をつぎ込めば、政府の効率性の問題を避けることができます。

 あくまでも政府は、民間が評価した報酬を「増幅」させる役割に徹するという新しい考え方が重要になるでしょう(民間評価増幅法)。

 基礎科学については、論文賞の受賞が莫大なお金になるようにすれば良いでしょう。たとえば、大きな発見をした人が民間で賞金500万円の最優秀論文賞を受賞すると、政府から9500万円が与えられ、1億円への増幅効果が得られるようにするのです。国家予算の投入により、外国の論文誌ではなく、日本の論文誌が、優秀な日本人の論文を集めるようになれば、日本語の地位も飛躍的に高まります。

 応用技術については、職務発明の対価の額を参考にすればよいでしょう。たとえば、発明をした人が職務発明対価5000万円を受け取ると、政府から5000万円が与えられ、1億円への増幅効果が得られるようにするのです。このことにより、企業側の経営への懸念も減ります。企業外の独立した技術者の場合には、その技術者が保有する特許のライセンス収入等を増幅すればよいでしょう。

 そして、上位1万人に選ばれた科学者・技術者には、金銭面だけではなく、研究の自由など様々な点で強力な支援をすることが重要です。

 なお、上位3名は、100億円単位、10億円単位にするなど、1兆円の予算の割り振りには色々なバリエーションが考えられます。いずれにせよ、異能、異才、異端を、日本の国が何としてでも保護するという強い意思を示すことが重要です。

II.個人主義と集団主義の対立から、集団異端主義へ

 学校教育も変える必要があります。創造性教育の一貫として、異端を大切にすることを徹底的に教えることが必要です。

 集団異端主義により、日本を世界最高の文化国家、科学技術国家にするのです。日本は、伝統と新しいものをうまく融合できる特異な国家です。集団主義と個人主義の対立という古い図式を切り崩し、新時代にふさわしい集団異端主義として融合させていくことが必要なのです。

 日本社会の中で、多くの異端、異能、異才が、弾圧を受けて地獄を見ました。これらの人が、日本は最低の国だと叫びたくなる気持ちは良く分かるのです。どんなに苦しかったかを考えれば、心の奥底からの叫びはとめることができないのです。しかし、日本はそんなに情けない国ではないし、変化の萌芽は見られるのです。

 日本は、アメリカやヨーロッパでは到底できないことを実現するのです。そのためには、日本の集団主義を、これからの時代にあったものに変えていき、伝統的な日本の文化と、新しい日本の文化とを融合させていくことが重要なのです。

 欧米が到底追いつけない、フロントランナーとしての集団異端主義が望まれているのです。

III.新科学技術革命

 そして、日本は、人類の歴史上初の「新科学技術革命」を成し遂げ、産業革命を最初に成し遂げたイギリスのような地位を築くのです。全世界で、広く日本語が使われるほど、日本の地位を高めることが必要なのです。



 欧米の後追いではない、独自性のある新しい社会を実現するのです。異端者が、個人として大切にされ、なおかつ物事が円滑に動いていく社会が実現されるのです。そして、他の国が羨望するような、新しい文化と科学技術の成果を、強力に世界に発信していくのです。それにより、日本社会は世界に貢献し、将来が安泰となります。

 そのことが、国民の不安を減少させ、景気を拡大させ、税収を増やし、日本の財政を再建させるのです(経済成長による財政再建)。そして、貧富の格差を小さくするだけの国力の余裕ができ、社会のあらゆる人々が大きな利益と安心を得ていくのです(格差社会の終焉)。

IV.異端の連帯

 日本の異端の文化が、アメリカやフランスでは育たなかったのはなぜでしょうか。それは、異端者を理解する変人、奇人、変わり者、偏屈な頑固者、マニア、偏執狂、オタク、天才、病的性格者等の異端者が、世界のどこでもなく、日本社会に存在し、異端者の作品に、日本の職人気質的なこだわりと執着を見せ、莫大な資金を投入したからです。

 このような異端者同士の支援の輪が、日本の文化力、産業競争力を著しく強化しました。このような動きを、日本社会全体で支援していくことで、欧米が到底追随できない強固な異端の文化を築くことができるのです。

 そして、そのような異端の力が、創造性と独創性を生み出し、科学技術立国、知的財産立国を支えていくのです。

 現在のネット社会において、異端者は一人ではありません。集団の力は、異端と矛盾するものでは必ずしもないのです。テクノロジーの進歩によって、異端者が集まることが可能になったのです。理工系の地位向上の会では、異端者を含む理系の連帯を呼びかけています。



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